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2015/09/13

高橋伴明監督「赤い玉、」

高橋伴明監督「赤い玉、」を見た。

 
見る前には、性的に過激な映画であるとの印象があり、そんなことを特に見たいと思っていないため、観ようかどうか迷っていた。
 
しかし、観て大変感銘を受けた…簡単に言うと、面白かった。
 
その面白さの第一は、主人公である映画監督であり大学教授の時田、それは俳優の奥田瑛二であり、監督の高橋伴明自身の投影でもあるのだが、人生の末期に至った男の、最後の悪あがきの滑稽さにある。
 
その滑稽さは、必死に生きることの、必死に映画を撮ることのカッコ悪さなのだが、それは時に愛おしく、時にカッコ悪さを通り過ぎてカッコ良くすらある。
 
この映画の主人公の時田のようにカッコ悪いながらに人生に対して一矢報いたいと思っている男は多いと思う。そういう意味において「赤い玉」なのである。最後の一発。それは何も性的な意味に限らない(性的な意味に限って見ると、この映画の本質を見落とすことになるだろう)。最後の一矢が報いられるかどうかは映画を見ていただくしかないけれども、その必死さは胸に迫るモノがある。
 
この映画の面白さの第二は、監督の高橋伴明の大学の教え子たち新人俳優(村上由規乃、土居志央梨、花岡翔太、上川周作)のとてつもない魅力である。
 
高橋監督が撮ったから魅力的に見えたのか、もともと魅力的な子たちを撮ったのか、おそらく両方だろうけれども、彼女、彼らは、自分たちの実像に近いだろう役柄を、濡れ場を含めて体当たりで演じている。
 
彼女たちが持ち寄った本物が無ければ、奥田瑛二の最後の右往左往が嘘臭くなる。彼女たちの魅力に出会う為だけでもこの映画は観に行く価値がある。今後映画界で活躍するであろう彼女たちの映画的な誕生を共有できるのは観客にとっても喜びである。
 
この映画の面白さの第三は、主人公時田の恋人である唯の存在である。
 
彼女の伴侶として半端無い優秀さ(しかもそれはかなりさりげない)は目を見張る。グラスにウィスキーを注ぐタイミング、時田のかゆい背中の掻き方(笑)、賞味期限の切れかけた映画監督時田の自尊心をくすぐるやり方の数々、映画を見たら分かるけれども、もしかしたら全ての黒幕が彼女かもしれない。ぐらいの勢いだ。ストーリーに深く触れてしまうから書けないけれども、日蔭の女に見えて、そうでもない、むしろ彼女が居ないと主人公の時田は生きていけない、というような女性の造形もこの映画をぐっと魅力的にしている。さらっと見てしまうと単なる便利な女なのだけれども、実はもっと重要な存在。僕的には彼女は三島由紀夫「サド侯爵夫人」のルネに見えた。というように、この映画は三島由紀夫、川端康成らの小説を彷彿とさせるような文学的な香りがする。志の高い映画だ。
 
さらに、「虚実ない交ぜ」という言葉があるけれども、この映画は冒頭で主人公によって「俺は嘘つきだから」という言葉によって始まる「嘘つきの告白」でもある。「クレタ人は皆嘘つきだとクレタ人が言った、さてクレタ人は嘘つきだろうか」という「自己言及のパラドックス」なんてものがあるけれども、哲学的には、この映画はその自己言及のパラドックスの、巧妙な、映画化なのだ。舞台挨拶で、監督自身が、この映画三回見てくださいと言ったのは単に興行を気にしてのことだけではなく、見るたびに、この映画の「本当」は変化するから、三回見てくださいというわけなのだ。てことは、観に行った人でも印象はずいぶん異なるだろう。それを許容する、究極の遊びとしての「映画」がついに日本に誕生した。ということかもしれない。ちょっと言い過ぎかもしれないが、観た後にみんなの感想を聞きたくなる映画だ。ぜひ観に行って感想を聞かせて欲しい。
 

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