中村暢明演出「明けない夜 完全版」
11月27日に中野ザ・ポケットで始まる国家的演劇プロジェクト「日本の問題」は常日頃からの僕の問題意識に端を発した企画ではあるが、直接的には、JACROWの「冬に舞う蚊」をみたことがきっかけだった。日本で、こんなにも骨太の演劇が行われている。そのことを多くの人々に知ってもらいたい。観に行ってもらいたい。そのことが、「日本の問題」という社会派演劇のオムニバス公演を企画することにつながっている。
JACROWと僕の付き合いは、かつて僕の劇団の芝居「1999.9年の夏休み」@吉祥寺シアターに看板女優の蒻崎今日子に出演してもらった時からである。
JACROWの主宰の中村暢明氏は某大手代理店に現在も勤務するバリバリの社会人であり、僕もまたかつては日本銀行に勤めたバリバリの社会人と言うことで、リアルな背景をもった異色の作家同士、親近感を持って眺めていた。
そののぶさん(中村暢明氏)の書く世界観はグロテスクにリアルでひりひりとした空気で舞台客席が息苦しい。
そんな凄みのある世界を構築できるのも、僕は密かに、のぶさんが実社会の経験豊富なリアル社会人であるからだと思っている。
なので、「日本の問題」という企画公演をやるにあたって是非ともJACROWの参加が必要と、一番初めに、経済とHの佐藤治彦さんと僕で、のぶさんを口説いたのであった。
・・・
とまあ「日本の問題」にとってなくてはならない存在のJACROWなのであるが、そのJACROWが現在公演をしている。しかも、今日まで。三軒茶屋のシアタートラムにおいて。
先ずもって驚かされるのは、作りこまれた美術である。
これまでの劇場でも当然リアルを志向する演劇を展開してきたJACROWであるが、ここまで贅沢にリアルを追求した美術はいままでにもなかった。
息苦しいほどのリアルで観客を追い詰めるJACROWとしては、今回、この美術がリアルであることが決定的に重要である。
また同じ意味において、雷鳴が、驟雨が、夕暮れが、闇がリアルであることが決定的に重要である。
そこで演じる役者たちの時間や視界がリアルであることが、おそらく役者たちの本気度を恐ろしいほどに高めている。
美術を舐めてはいけないわけで、僕の知り合いの美術をやっている人は、映画の美術なんだけれども、たとえば登場人物の部屋を飾るときに、映像には映らないところにも凝ると言っていた。というのも、例えば、登場人物の部屋で、本棚にどんな本があるか、また机の引き出しをそっと開けたときに何が入っているか、ふと明けてしまった机の引き出しに入っていたビー玉、それを見た役者の本気度が変わり演技が変わるから見えないところにも凝る。美術も役者の演技を引き出すことのできるものでないといけないと言っていた。
同じような意味において、リアルを志向するJACROWにとってシアタートラムという空間で、贅沢にリアルな美術、またその他の効果がいつも以上にリアルに機能することはとても重要で、たとえば、狭い劇場ならば、ここからここまでに歩く時間が短く、その思考も短縮せざるを得ないのに、シアタートラムと言う空間でならば、あっちからこっちまで歩くだけで、人はいろいろと物を思う。人を愛すること、憎むこと、嫉妬すること、イラつくこと、ふと考えてはいけないことを思う。そういう意味でも、シアタートラムと言う空間でJACROWが芝居を作るというのはとても画期的なことだったと言わざるを得ない。JACROWはある程度の規模をもった劇場で、予算も潤沢に使ったリアルな美術でやってこそ本領を発揮するのだと思う。
だから、これまでJACROWの芝居を見て何ほどか思ったことのある人ならば、今回のシアタートラムの公演を観に行かねばならない。
また、これまでJACROWのことを気にしながら足を運んでいなかった人は、無理をしてでも足を運ばねばならない。
リアルな美術、リアルな演出に触発された役者たちの恐るべきリアルが、本来見えないところに隠されているはずの真実をすべて暴きだす。その悪の腐臭は吐き気を催させる。しかし、それはワクチンだ。悪のパンデミックを防ぐための。演劇はその役目を果たしうる。JACROW「明けない夜 完全版」はその演劇の力を知らしめるに相応しい芝居である。ぜひとも足を運んでみて欲しい。本日まで。
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