坂手洋二作演出「推進派」@下北沢スズナリ
燐光群の名前はだいぶ前から知っていた。
知ってはいたが、燐光群と言う劇団が、バリバリの社会派で、その演目の内容も難しいという評判から、足を運ぶ機会を逃し続けてきた。
昨年、ProjectBUNGAKU太宰治なるイベント公演を僕が主催したのだが、その打ち上げの席で坂手洋二さんと初めてお会いした。
非常に気さくで優しく軽妙洒脱、またお酒が入っても論理を崩されずにお話しされる坂手さんの姿に素敵な方だなあ、どのようなお芝居を書かれるのだろうか、見てみないと・・・との思いを強くしていた。
また、その席では、僕のProjectBUNGAKUという企画アイディアも大変評価していただいた。
さらには、僕は今年の11月から12月に、小劇場劇団8劇団、学生劇団6劇団による社会派演劇フェスティバル「日本の問題」というのを主催するのだけれども、なおのこと、現代の社会派演劇の先駆者である坂手洋二さんの芝居を見なくてはならないという思いを強くしていた。
そんなこんながあり、今回、「初」燐光群体験をすることとなった。
衝撃を受けたのは自分が泣いたことだ。
物語は、沖縄、普天間の米軍基地移転問題を扱っている。
舞台は鹿児島県徳之島(劇作中ではサチノ島と名前を変えている)。
県外移転を公約した鳩山政権時に、移転先として脚光を浴びた島だ。
「推進派」とは島内基地移転を推進するトミオカという男が主人公だからだ。
終演後、飲みの席で、坂手さんとお話しする時間を得たのだが、この話、ほぼドキュメンタリーというか取材に基づいて作劇されているそうだ。登場人物にも全員モデルがいると言うことを言われていた。
というようなことだから、見る前は、沖縄の基地移転問題についてなるほどこのように入り組んでいるんだなあと、「理解」できるような芝居なのだろうとの印象だった。
もちろん、その点は予想通りに理解できる芝居なのであるが、それ以上のモノがあった。
推進派の、そして反対派の、それ以外の人たちの、切実な思いに満ちた芝居だったのだ。
とくに反対派の1人、鴨川てんしさんが演じたマエサコの言葉と思いにはひどく胸を打たれた。
僕も劇場に居ながら、サチノ島に滞在する人間の一人になっていた。
我田引水になるが、僕が「日本の問題」という企画を思いついたのも、この演劇のもたらす「当事者性」に注目したからなのであった。
歌や音楽は、理屈じゃない衝動を瞬間に呼び起すことができる。
それは演劇になかなか出来ないことで、ある意味うらやましいこと。
演劇はある一定の長い時間、見る者を拘束しないと伝えられない。
しかし、それはなんだろう。
一定の長い時間を拘束してはじめて伝わるモノ・・・演劇にしかできないことって。
それは観る者を巻き込む力なんじゃないかと思ったわけです。
たとえば、歌で普天間基地の移転問題をうたうこともできる。
でも、それで伝わるのは雰囲気や気分でしかない。
一方、論文やジャーナリスティックな記事なんかでは、理屈っぽいことはだいぶ分かるし伝わる。
音楽で出来ないことをできる。
普天間基地問題の構造はよくわかるだろう。
しかし、それでは足りないモノがある。
それはその問題を自分のこととして切実に思わせること
つまり「当事者性」なんじゃないかと思ったわけです。
もちろん、総合芸術ですから、論文の良いところ、音楽の良いところも取り入れて
そんでもって、観客をその現場の目撃者にする当事者性もあって
というわけで、その演劇のすごさを見せつけてやろうというのが「日本の問題」の1つのテーマでもあるわけです。
ちなみに、映画映像と演劇の違いは一つには「普及性」の違いがあり
「当事者性」については非常に似てはいるが、やはり映画は演劇にはかなわない。
演劇は観客にリアルに水をぶっかけることができますからね。
ジェットコースターの映像だけでも脅えることはできるが、実際のジェットコースターに乗った時の脅えにはかなわない。
だから「普及性」については映画の勝ちだが「当事者性」については演劇の勝ちw
そんなわけで、演劇の特徴はなによりも観客を巻き込むこと、観客を当事者とすることにあると思う訳ですが、今回の燐光群の芝居はまさにその典型ともいえるものでした。
僕にとって、隔靴掻痒、縁遠い普天間基地の移転問題を、僕のこととして「痛く」感じることができた。
なかなか泣かないよ。泣けないよ。関係ない場所の人が基地移転問題で泣けないよ?
それが泣けるんだから、凄いってことです。
で、みんなに観に行って欲しいんだけど、とくに興味無い人に観に行って欲しい。
社会的な問題に関心のある人はさ、もともと興味あるんだろうから、そういう人はもう行っている。
行って欲しいのは、社会問題をわざわざ演劇で見るなんてメンドクサとか思っている人。
「普天間なんて俺に関係ねぇし」
って言う人に観に行って欲しい。
観終わった後、その関係ないはずのことが自分のことになっているのに驚いて欲しい。
原発の問題だって、デフレの問題だって、結局は人間の物語なんだ。
結局は、人。
そして悪人なんていない。
みんながみんなそのレベルで良かれと思って行動している。
結果、良いことが起こるとは限らないけど。
その悲痛な状況を知り悩み笑い涙する。当事者として。
「演劇」にはその力がある。
http://stage.corich.jp/stage_detail.php?stage_id=27298
それをまざまざと知らしめる公演であった。
下北沢スズナリでは6月19日、日曜日まで
その後、兵庫、愛知でもやる。
沖縄問題なんて興味無い、そういう人はぜひ行くべき芝居である。
---------
企画公演「日本の問題」は、
小劇場劇団8団体、学生劇団6団体、計14団体による社会派演劇フェスティバルです。
それぞれの劇団が、それぞれがこれぞ「日本の問題」と思うことを14の視点で演劇化します。
小劇場版は11月27日から中野ザ・ポケットでやります。
学生版は12月19日から渋谷ル・デコでやります。
ぜひぜひご期待ください。
ちなみに、小劇場版では8劇団合同オーディションを行います。
以下のURLをご覧いただき、こぞってご応募ください。
http://nipponnomondai.net/au.html
各劇団の演目が紹介されています。
オーディションに関係ない方も、各劇団主宰の思いは非常に面白いのでぜひ読んでみてください。
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。
コメント