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2010/02/17

天国の芥川もニヤリ…

日本文学シネマを2夜連続で見た。

(日本文学シネマについては→

第一夜目の太宰治「黄金風景」は非常に残念な感じだった。
若き日の太宰の家は「どこだ?ここ?」というぐらいの素敵なロケーションをもってきたなとはおもったけどそれだけで、優香の演技、少年の演技ともに、うむむとなる。ついでに、原作にはない足したセリフがどうもおかしい。たとえば巡査が太宰に会って、妻のお慶を連れてくるというくだり、原作では太宰はコメントせずに巡査は去る。が映像ではここで太宰に「来るな!来なくていい!」と絶叫させる。太宰がそんなこと言うわけもないし、たとえ言ったとしても、そんな太宰のせりふを聞いた巡査がなんのリアクションもせず、「今度妻を連れてきますんで」と去るのは不自然極まりない。非常に気になった。なぜ、そんなセリフを足したのかよくわからない。またその巡査に会う前に貧苦に喘ぐ太宰が本を盗むのだが(このエピソードも原作にはない)、その盗む本の著者名が上田某であるのがわかるのだが、これも非常に気になる。というのもマニアックな話となるが、上田とはおそらく上田重彦のことで、太宰の弘前高校時代の小説のライバルの名前だからだ。そのような重大な名前の書いてある本を太宰が盗むにあたってノーリアクションのわけがない。上田某など、視聴者は知らないだろうからと馬鹿にしてその名前を出したのだろうか。だとすればその名を出す意味がわからない。あるいはその名前を出すことが太宰の背景を知っている人に対してのサービスだと思ったのだろうか。もしそうならば無神経すぎるとしか言いようがない。あまりにも頓珍漢である。上田某の名前を出したのは明らかに監督に問題がある。映像もストーリーも演出もテレビの軽さも相まって、あああ、やっちゃったな感が強かった。しかし向井理の太宰治は良かった。

太宰治「黄金風景」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/2257_15061.html

一方、昨夜の芥川龍之介「魔術」はかなり良かった。一夜目のあれれな感じが残っているから、熊切監督といえども、ちょっと残念なことになりはしないかと緊張しながら見た。最初のインド人とかは笑えるもののあれれな感じになりかねない危ない橋であったが、しかし、原作にはないオリジナル部分の、中村ゆり絡みの恋愛部分がとても素敵で、CMごとに、え、この先どうなるの?と思わせる素晴らしい運びで、最後エンドロールの映像でちょっと泣きそうなぐらい切ない気持ちにさせる。塚本高史がよくこの詩情を体現していた。また中村ゆりがびっくりするほどに可愛い。20分程度の映像なのに熊切さんさすがと感動。不勉強で原作を読んだことがなかったが先ほど、青空文庫で読むと、この映像作品が、よく芥川の原作の詩情を汲み取り美しく結晶させた作品であることがわかった。芥川の原作を超えているのである。それでこそ映像化の意味があろうというものだ。天国の芥川もニヤリとしているに違いない。

芥川龍之介「魔術」
http://www.aozora.gr.jp/cards/000879/files/95_15247.html

さて、本日第三夜は、梶井基次郎「檸檬」である。監督は、「なま夏」「机のなかみ」「純喫茶磯辺」の吉田恵輔監督。吉田監督は大変態の大天才だから、あの国語教科書でおなじみの「檸檬」がどのように映像化されるか実に楽しみである。

この「日本文学シネマ」の企画。原作があっという間に読める。どう原作の詩情を汲み取り映像化したかがすぐに「採点」できる。そういう面白さもある。ぜひ、みてほしい。

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コメント

劇中の本は上田進訳 プーシキン詩抄ですね。

黄金風景の冒頭に出てくるプーシキンの詩と作品との関連性を調べ尽くした監督の(試写会でその経緯を熱く語っておられました)、ウィットに富んだ演出だと思います。原作にはないエピソードと言うご意見はともかく、上田重彦氏とは何ら関係ないことは明白です。

加えて幼少時代の太宰の家は、太宰に造詣の深い方ならなら一目でわかる、かの斜陽館(ドラマの撮影で使われたのは史上初だそうです)です。ご存知ありませんでしたか?

演出上の違和感などに対するご意見は様々であって然るべきだと思いますが、知識がおありになるような批評なのに、間違った認識でご批判をされるのはどうかと。上田重彦の事をご存知だという知識が先行した危うい批評です。

間違った認識だけは、記事訂正せず、是非ブログ上でご謝罪頂ける事を願っています。監督に失礼です。

実直で本当に申し訳ありません、大変失礼なことは理解しております。が、ご意見まで。

匿名希望

投稿: | 2010/02/17 12:17

匿名さま、ご指摘ありがとうございます。
以下、もろもろ書こうとしたら、ものすごく長くなってしまったので、新記事にしました。

投稿: まつがえ | 2010/02/18 08:13

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