« 楳図かずお恐怖劇場!! | トップページ | 現状報告 »

2005/06/21

クリストファー・ノーラン監督「バットマン ビギンズ」

映画の快楽・・・映画を観ること以外の行為では得られないたぐいの快楽、そういうものが確実にこの映画の中にはある。

ただし、「バットマン」というネーミングで、これまでのお祭りSF映画を期待しているとがっくりすることになる。気をつけなければいけないのは、なにより監督があの「メメント」のクリストファー・ノーランであり、ワーナーブラザーズは、7年間のブランクを経て、ドル箱バットマンを再生するために、クリストファー・ノーランを選んだという背景である。

ちなみに僕自身はそんな情報は入れずに、バットマンだろ・・・という感じで見に行った。

しかし、見始めて、すぐに、これがいわゆる娯楽作品ではなく、いや娯楽は娯楽なのだけども、なにか挑戦状をたたきつけられるような、しかもたたきつけてくるのは西洋哲学なのだけど、そういう感じを受けた。

そしてすぐに思い浮かべたのがナイト・シャマラン監督の作品「アンブレイカブル」だ。

あれは普通の男が正義のヒーローとなるのを、退屈とも思えるようなリアリティを積み上げることによって描いた映画で、いわゆる漫画チック、コミックチックなヒーロー、僕はこれをとても浮世絵的なものだとおもうのだが、浮世絵的な記号化やジャンプを必要とする言語、そういうものとは反対の位相にある写実的な西洋絵画的な、遠近法的なものとして描こうという作品・・・それが「アンブレイカブル」だった。

もしかすると出自が西洋ではないインドのナイト・シャマランは西洋人としての切符を手に入れるために、あえて、西洋誇張的な「アンブレイカブル」を撮ったのかもしれない。そうではないかもしれないが、非西洋という彼の存在視点がより西洋誇張的な作品を作らせる助けにはなっただろう。

全然映画の系譜は違うが、言ってみれば、こないだの「リチャード・ニクソン暗殺を企てた男」も「タクシー・ドライバー」という漫画・・・浮世絵を遠近法化・・・西洋絵画化したものだ。

つまり、西洋人たちの、偏執狂的な細部にわたる決して抽象化されることの無い唯物主義みたいな考え方、素朴実在論というかそれが今でも映画を作っているわけです。そのことが、この「バットマン ビギンズ」を見ても、よくよく見て取れて感心させられた。あれは日本人にはもてない根性だ。どうしても仮面ライダーやウルトラマンは写実的にはならない。できない。漫画を離れることが出来ない。離れなくてもいいと思っている。だからリアリティをもった特撮技術が西洋ほど進まないのではないか、ぬいぐるみはぬいぐるみでOKなのだから。日本においては。しかし、西洋人はそれでは我慢できないのだ。ウルトラマンの生命維持装置というかカラータイマーはなんなのか。それが機械であるなら、ウルトラマンのあの赤シルバーの表面は皮膚ではなく宇宙服なのか。皮膚でカラータイマーも生物的なものだとすると、ちょっとリアリティがない。宇宙服だとするとなんで中身は出てこないのか?ウルトラマンの中身はぬるっとしたゼリー状のもの。アメーバー型生命体かもしれない。あるいは神経むき出しの人体模型みたいなもの。そんなんだったら子供はこわくて泣く。諸星ダンがウルトラマンセブンになるそのリアリティ・・・生物学的要件はどこで担保されるのか。巨大化はなぜ起きるのか。質量保存の法則、エネルギー保存の法則あれはウソなのか。そう考えると西洋人がウルトラマンを実写化すると面白いんじゃないのか。いや、ウルトラマンは実写なのだが、日本でやる限り実写といってもあれは漫画なのだ。そしてそれは悪くは無い。漫画は・・・つまり抽象論を抽象論のままで遊ぶ能力を必要とするゲームは、リアリティ・・・素肌実感を重要視する野蛮で低俗でだからこそ世界的・・・な西洋思想とは根本的に別の根っこをもっている。

ぼくらがCGアニメよりも金田伊功さんの作ったアニメが好きなのはぼくらが浮世絵、日本画の国の人間だからなのだ。つーか日本がアニメ大国なのは漫画を実写化する必要を日本人が持っていないからなのだ。

だから「バットマン ビギンズ」なのである。西洋人は。

とは言うものの、所詮「バットマン」は漫画である。
これを徹底して実写化・・・徹底してする
その矛盾が面白い。

どんなにリアリティを持たせようと思っても
持たせきれないほどのジャンプが存在する。

ちょうど、ぼくの隣の席に白人軍団が座った。
もう映画見ながら嬌声を上げるわ、ポップコーンを食うわで大変だった。
しかしイヤではなく実に興味深かった。
時に僕は映画よりも彼らを見ていた。

笑う。

笑うのである白人軍団は。

なにに笑うか。
徹底した写実主義にこだわろうとして、徹底できてない部分を笑うのである。
声をあげて。もう爆笑するのだ。日本人が一切笑ってないところで。

たとえば、雪山で落ちる男を助ける場面。

日本語で言えば「ありえねー」という感じだろうか。
同じように彼らが笑うのはすべて「ありえねー」という部分なのである。
そもそも「ありえねー」漫画である「バットマン」をありえるようにしようと思ってつくられているこの映画。
それでも無理がある部分がある。

そこに確実に彼ら西洋人の同朋は突っ込みを入れる。
そこにも僕はおそるべき西洋思想の根深さを感じた。

ちなみに、いま僕の文章のテンションが落ちているのは
どうせこんなに長く書いてもみんな読んでくれないんだろうなという気持ちが
いきなり去来したからなのであるが。

何はともあれ、西洋的な偏執のすごさ。
それが故に、映画が病的にリアルになっていく動き。
でも所詮、映画はリアルなんだよなと思う。

そのありもしない空間がそこにあると思えるすごさ
これを感じることが出来るのが映画のすごさ・・・映画を観ることの快楽なんだよなと思う。

ちなみに、ゲーリー・オールドマン、こんな演技も出来るんだなぁと。


バットマン ビギンズ@映画生活

|

« 楳図かずお恐怖劇場!! | トップページ | 現状報告 »

コメント

いや、読んでまっせ....(^^)

「あー...だから、ゴジラはあんな感じになったのか」とか...「昨日、NHKで田村英里子さんが映画監督のメールの話(登場人物の本編以前の経歴について、「わかった!」ってメールしてきたと言う話)も納得だよな、そこまで細部にこだわらずにおられへんねんやなぁ」とか....「ディズニーのキャラクター(ニモとか...)が中途半端にリアリティにこだわってるのもそのせいか?」ごっちゃごちゃといろいろ頭に浮かんでくるきっかけになっちゃってたりしますが...なんか、「ミクロの決死圏」とか見直したくなって来た....

↑あたまのなかのごちゃごちゃをそのまま文章にしたようなかんじだな....すんません。

投稿: 猫ぴ@朋加組 | 2005/06/21 16:21

猫さん!
どうも読んでいただけて感激です。

> あたまのなかのごちゃごちゃをそのまま文章に
> したようなかんじだな....すんません。

いえいえ、僕も同じです。
たれ流しっちゃたれ流しなんだけど
たれ流しの面白さってのもあるしね。

投稿: 松枝 | 2005/06/21 16:43

>どうせこんなに長く書いてもみんな読んでくれないんだろうな

楽しく「うん、うん」頷きながら、しっかり読ませていただきました。

投稿: bamse | 2005/06/22 07:03

bamseさん、ありがとうございます。
こんなめんどうくさい文章読んでいただいて!

投稿: 松枝 | 2005/06/22 15:13

金子監督から突っ込まれてしまいました。

× ウルトラマンセブン

○ ウルトラセブン

申し訳ありません。
恐れ多くもウルトラマンの権威が見ているのに
たとえ話にウルトラマンを引き合いに出すことの恐ろしさ。
肌で感じております。

投稿: 松枝 | 2005/06/22 16:26

そーいえば、ウルトラセブンだけ?だなぁ。
「マン」ついてないのは...。
アストラやゾフィーや父母は通称っぽいからいいとして...。

投稿: 猫ぴ@朋加組 | 2005/06/22 17:22

はじめまして。僕も結構長い文章を書く方ですが、こちらも長いですねえ(笑)。「どうせこんなに長く書いても・・・」の部分は激しく同意、いや毎回僕も思ってます(笑)。気が付いたら長くなってるんですよねえ。良かったら、僕の日記も見てみて下さい。負けず劣らず長いです。

投稿: type-r | 2005/06/27 00:22

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/56674/4648253

この記事へのトラックバック一覧です: クリストファー・ノーラン監督「バットマン ビギンズ」:

» バットマン ビギンズ [Akira's VOICE]
新たな幕を上げたバットマン。 ドラマ性に優れ面白かった! [続きを読む]

受信: 2005/06/21 15:50

» 『バットマン ビギンズ』、観ました。 [肯定的映画評論室Blog支店]
またも“アメリカンコミック”のヒーローもの?、しかも、今度は、あのクリストファー・ノーランが『バットマン』を撮るという‥‥、正直、今日初めて観るまでは「ノーランよ、お前もか!」の印象拭えずだったわけではあるが(笑)、観れば納得。積み上げられたプロットと随... [続きを読む]

受信: 2005/06/21 15:52

» バットマン ビギンズ(2005/米) [エンタメ系のススメ]
バットマン ビギンズ(2005/米)(映画)バットマン ビギンズ(2005/米)超ド級のB級活劇人気blogランキング参加中新たなるバットマンのはじまりはじまり決して!!『バートン=バットマン』と比較してはいけません。『バートン=バットマン』とはある意味対極に位置する硬派...... [続きを読む]

受信: 2005/06/21 17:38

» (試写)『バットマンビギンズ』感想 [(映画)新作DVD発売日情報]
6/18〜公開『バットマンビギンズ』出演:クリスチャン・ベール、リーアム・ニーソン、モーガン・フリーマン、ゲイリー・オールドマン、ケイティ・ホームズ、マイケル・ケイン、渡辺謙STORY裕福な企業家の御曹司に生まれながら、すべてを捨てて放浪する青年ブルース・ウェ...... [続きを読む]

受信: 2005/06/21 18:21

» バットマンを観に行った。 [半透明美少女関係]
今日は少し時間があったので、 『バットマン・ビギンズ』を観に行った。   わりと楽しみにしていて期待感は高かったので、上映が始まった時は なぜか緊張していた(笑)   で、内容はと言うと・・・ ブルースの子ども時代      ↓ ブルース青年期。... [続きを読む]

受信: 2005/06/21 18:22

» 生傷の絶えない、人間味あるヒーロー◆『バットマン・ビギンズ』 [日々の記録と、コラムみたいなもの]
5月30日(月)完成披露試写会(ピカデリー1)にて 友人の誘いで『バットマン・ビギンズ』の完成披露試写会に潜入した。 今やすっかりハリウッドスターの仲間入りとなった渡辺謙が出演していることが話題になっているアレだ。 スーパーマンとかスパイダーマンとか、空飛... [続きを読む]

受信: 2005/06/21 18:26

» バットマン ビギンズ [日々徒然ゆ〜だけ]
 ブリティッシュな香りのする,フィリップ・K・ディックの描く近未来都市にも似たゴッサムシティ。大富豪のウェイン家がお貴族様に見える。アメコミのハジけ具合は今一つな感じだが,わしはこぅいうスマートなの,結構好きだよ。  人間・ブルース・ウェインの成長物語と... [続きを読む]

受信: 2005/06/22 00:32

» バットマン ビギンズ 高潔父ちゃんに★5 [おえかき上達への道]
バットマン・ビギンズ ★★★★★ 予想以上にシリアスでした。 こんなにも街が大変なことになるとは思ってなかったので夢中で観てしまいました。 精神攻撃はこわいっすよ・・・ 父ちゃんの言葉と、執事に感動いたしました。 ★5です。文句ないです。 あえていってみるなら..... [続きを読む]

受信: 2005/06/22 02:21

» バットマン ビギンス[Batman Begins] [ヒトコトシネマ☆インプレッション]
★内なる闇を解放する、新しい魅力のバットマン2005/アメリカ 監督:クリストファー・ノーラン 脚本:クリストファー・ノーラン、デビッド・S・ゴイヤーバットマン ビギンズ 売り上げランキング : おすすめ平均Amazonで詳しく見る by G-Tools「悪を粛正するには、正義(justice)と... [続きを読む]

受信: 2005/06/23 23:08

» 決定版!「バットマン・ビギンズ」 [soramove]
「バットマン・ビギンズ」★★★★ クリスチャン・ベール主演 1989年製作の「バットマン」前にも 2作作られているが、それ以降 「バットマン リターンズ」(1992) 「バットマン・フォーエヴァー」(1995) 「バットマン&ロビン Mr.フリーズの逆襲」(1997) 3作...... [続きを読む]

受信: 2005/06/25 01:36

» 『バットマン ビギンズ』 [歯医者さんを探せ!]
          BATMAN BEGINS    '05・アメリカ・140分    オフィシャル・サイト   映画生活 アクション映画にストーリーは要らないなどと、おバカ映画を期待していた私がおバカ。これは真面目に観たかった最初の1時間。若干1名隣で寝てるし、生ビール...... [続きを読む]

受信: 2005/06/25 15:10

» [バットマンビギンズ][劇場] [一年で365本ひたすら映画を観まくる日記]
■ストーリー 『ゴッサム・シティの大富豪の御曹司として、幸せな少年時代をおくっていたブルース・ウェインの人生は、目の前で両親が殺されて以来、一変した。悲劇の発端を招いてしまった罪悪感、抑えがたい犯人への復讐心、父から受け継いだ善行への使命。さまざまな葛藤を抱え、ブルースは世界を放浪する旅に出る。ヒマラヤの奥地で“影の同盟”を名乗るデュカードという人物に出会ったブルースは、彼に師事して心身を鍛錬。数年ぶりにゴッサムに戻ったブルースは、自らの全てを賭け、悪と闘うことを決意する。闇の番人、バットマン誕生の... [続きを読む]

受信: 2005/06/27 00:02

» バットマン・ビギンズ [シカゴ発 映画の精神医学]
 娯楽映画というよりも、文芸映画。  私の感想を一言で言えばそうなる。  主人公ブルース・ウェインが、バットマンになるまでの過程を、しっかりとした人間描写で見せていく。その映像スタイル。音楽。編集。映画の前半部は、文芸映画の荘厳さと、重厚さを持っている。 ... [続きを読む]

受信: 2005/06/27 06:49

» バットマン・ビギンズ [impression]
ゴッサム・シティの大富豪の御曹司として、幸せな少年時代をおくっていたブルース・ウェインの人生は、目の前で両親が殺されて以来、一変した。悲劇の発端を招いてしまった罪悪感、抑えがたい犯人への復讐心、父から受け継いだ善行への使命。さまざまな葛藤を抱え、ブルースは世界を放浪す... [続きを読む]

受信: 2005/07/06 02:00

» 「バットマン ビギンズ」評/バットマンになるしかなかった男 [I N T R O+blog]
『バットマン ビギンズ』(05/アメリカ/クリストファー・ノーラン) Text By 膳場 岳人  総じて面白い映画と言っていいと思う。でも、他人に勧められるかといえば結構難しい。観ている間はずっと重苦しい気分に支配されるし、肝心のアクションシーンも、出来不出来の差が激しい。ことに肉弾戦の描写が全体...... [続きを読む]

受信: 2005/07/06 09:17

» スニークプレビュー 8 [自称・美人デザイナーのひとりごと]
「バットマン ビギンズ」の試写会行って来ました! 私知らなかったんですが、 バットマンって人間だったんですね! てっきりコウモリと人間のハーフの 妖怪みたいなのかと思ってました。 (きゃ~。バットマンファンの方、すみません・・・) そんな私みたいな...... [続きを読む]

受信: 2005/07/08 23:31

» バットマン ビギンズ(映画館) [ひるめし。]
その男は[闇]から生まれた―――。 バットマンシリーズはジム・キャリーが出てた「バットマン・フォーエバー」を小さいときにテレビで“観た”記憶がある程度。そんなバットマンビギナーの私でも楽しめるのから?と半信半疑なから観賞〜。(世間では結構評判がいいみたいだけど・・・) 崖でヒゲのおっちゃんを助けるところは思わず心の中で“ファイト一発〜!!”って叫んでしまった(笑) どうもクリスチャン・ベ�... [続きを読む]

受信: 2005/07/12 16:55

» バットマン・ビギンズ [シネクリシェ]
 この手のスーパーヒーローものは、ヒーロー誕生の過程が紹介されることがあっても、たいていはごく簡単にまとめられているのが常です。しかしながら [続きを読む]

受信: 2005/08/04 06:07

» バットマン・ビギンズ 今年の219本目 [猫姫じゃ]
バットマン・ビギンズ おもしろかった!! ブルース・ウエインがバットマンになるお話し。実はあたし、バットマンって、あまり好きじゃなかったのです。だから、今までの映画も、一応見てはいるものの、よく覚えていません、、、でも、これはおもしろかった。今までのも、....... [続きを読む]

受信: 2005/10/31 17:16

» バットマン・ビギンズ [Creative*Company]
バットマンが誕生するまでを描いた「バットマン・ビギンズ」を見ました。 バットマンシリーズはほとんど見てるので初めて見るわけではないのですが、ただ「バット・モービルがかっこいい」とか「バットマンが使う小物がなんか好き」とか「とりあえず顔を隠して悪と闘うヒーローの謎めいたところが好き」とかそーとー浅はかな理由でこれまで「バットマン」を見てたので、この作品は久々にテレビ画面の前で前のめりになって見てしまった映画となりました^^)。... [続きを読む]

受信: 2005/11/03 00:07

« 楳図かずお恐怖劇場!! | トップページ | 現状報告 »